がん免疫療法は、T細胞(リンパ球)など自己の免疫力を活用してがんを攻撃する治療法であり、近年ではノーベル賞の対象にもなるほど注目されています。中でも「免疫チェックポイント阻害薬」がよく知られていますが、効果が一時的で効かなくなる(耐性化)問題も指摘されています。
最近の研究により、その原因の一つが T細胞の「疲弊(エネルギー切れ)」 にあることが明らかになってきました。特に、がん細胞の周囲でT細胞が脂肪を過剰に取り込むことが、攻撃力の低下につながるという現象が確認されています。
さらに、動物性脂肪に多く含まれる飽和脂肪酸(パルミチン酸)が、がん細胞の生存戦略に関与し、免疫抑制タンパク質(PD-L1)の発現を促進するという研究もあります。これにより、「脂肪の質」が免疫機能に大きく関わっていることが分かってきました。
🔍【詳しく解説】
1. がん免疫療法とは?
がん免疫療法は、自分の免疫細胞(特にT細胞)を活性化させ、がん細胞を攻撃する治療法です。
・「免疫チェックポイント阻害薬」は、がんが免疫から逃れる仕組み(PD-1/PD-L1など)を妨げます。
・ただし、すべての患者に効果があるわけではなく、途中で効かなくなるケースもあります。
2. なぜ効かなくなるのか?──「T細胞の疲弊」
がん細胞と長期間戦う中で、T細胞が疲弊して攻撃力を失うことがあります。
・これは「免疫疲弊(T cell exhaustion)」と呼ばれ、免疫療法の効果が低下する主な要因の一つです。
3. 【最新研究】T細胞の疲弊と「脂肪の関係」
がん細胞の周囲は、栄養が不足しがちな環境です。T細胞は生き延びるために脂肪を代謝してエネルギーを得ようとします。
・しかし、脂肪を過剰に取り込むと「Group IV-A Phospholipase A2」という酵素が活性化し、脂肪代謝が乱れます。
・その結果、T細胞内に脂肪が蓄積し、まるで“オーバーヒート”したような状態になります。
・こうした状況では、T細胞の攻撃能力が著しく低下します。
4. パルミチン酸(飽和脂肪酸)の悪影響
大阪大学の研究では、肝臓がん細胞内に脂肪が過剰に蓄積されていることが確認されました。
・特に、動物性脂肪に多く含まれるパルミチン酸の蓄積により、がん細胞はPD-L1という免疫抑制タンパク質を分泌します。
・このPD-L1がT細胞の働きを妨げ、免疫による攻撃から逃れる仕組みを作り出しているのです。
5. どうすればT細胞を守れるのか?
✅ 食生活の改善
・飽和脂肪酸(動物性脂肪、ジャンクフードなど)を摂りすぎない。
・オリーブオイル、魚に含まれるオメガ3脂肪酸、ナッツ類などの良質な脂肪を取り入れる。
・極端な脂肪制限ではなく、「脂肪の質」に注目することが大切です。
✅ ライフスタイルの見直し
・運動・良質な睡眠・腸内環境の改善は、免疫力の維持に効果的です。
・生活習慣の改善が基本です。
・ストレス軽減や、歯周病の予防・治療も免疫力を守るために重要です。
🧠まとめ:がんと戦う力は日常から
最新のがん研究では、「脂肪の質」や代謝状態がT細胞の働きに大きく影響することが明らかになってきました。つまり、免疫療法の効果を高めるカギは、私たちの日常生活の中にもあるということです。
日々の食事、運動、睡眠、そしてストレス管理まで含めて、がんと戦える体づくりは日常の積み重ねから始まります。